何にでもなれそうな夜
友だちのギャルから不意にLINEがくる。
「虚無」
彼女の嘆きはいつも手短だ。
特に核心には触れず、具体的な話をすることもなく、最終的に「後悔するかもしれない決断は日が昇ってからした方が良さそう」という結論に落ち着いた。
「テレビから歌うたいのバラッド流れてきて泣きそう」
「こんないい曲やっけ。ギャルやのに響いた、音域エグ」
そしてURLが送られてくる。
彼女がひっそり更新している歌声配信のSNS。2分前に「歌うたいのバラッド」を見つけた。
私たち、語彙も知識もないけれど、どっかの誰かが作ってくれた言語や記号やツールを使ってこんなにもたくさん表現する術を知っている。
遠くて遠い人とも、近くて遠いひととも、簡単に近づける。好きなものを好きだと言える。
私も君も、きっと何にでもなれるし、どこへでもいけるのだ。
そんな無責任っぽい言葉を呟いても許されるような、微かな全能感に包まれた夜を過ごしている。